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よんいちぜろ
日々のこととか、自分勝手な呟きとかそんなん。
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 この世界がこんなにも美しいということを、アタシは知っている。
 それはきっと、どうしようもなく、絶望したことがあるからだろう。
 だからアタシは思うんだ、この世界に生まれてよかった、って。

 *

「……あ」
 ある日、部屋を片付けていると、小さな箱を見つけた。
 物語に出てくる宝箱のような、アンティークの箱だ。
 ギィ、ときしむ箱を開けて、手に取ったのは、洋服。
 今よりもずっと小さかったジュダのために、ウォルダーが餞別だと寄越したものだった。ジュダの瞳の色によく似合う、淡い色のセーター。ジュダはこれがお気に入りで、いつもいつも、大切に着ていた。
 今になってみれば、ウォルダーが殴りあいになるまで反対した理由も、わからないでもない。アタシたちが疲れ果てていたことに加えて、アタシは……母親のいない、未婚の、女性だったから。
 母親に愛されたことがなかったから、この子の母親代わりになると決めたものの、どうしていいのかわからなかった。育てようと決めたからには立派に育てなくてはと、ジュダには秘密だけれど、世に言う育児書をかき集めて、夜な夜な勉強したりもしていた。
 実際には、育ててやろう、なんておこがましい考えだった。アタシが何もしなくても、ジュダは、自分で考え、自分で行動し、自分で成長できる子だったから。

 だから、決めた。アタシは、アタシの養父がそうしてくれたように、いつでもこの子の味方でいよう、愛し続けようと。

 次の一枚を手に取る。これは、ジャックが初めてうちで着た服。
 あたたかいから、思い出の一枚だから、二人のやさしさの象徴だからと、ジャックもこの一枚を大切に着ていた。
 ある日、木に引っ掛けて穴を開けてしまった時には、泣きそうな顔で謝ってきたっけ。
 ジャックに初めて出会った日のことは、今でも鮮明に覚えている。
 アタシに声をかけたウォルダーは、きっとこんな気持ちだったんだろうな、と。そう思ったから。
 アタシはきっと、ジャックを救うことで、アタシ自身を、救いたかったんだろう。
 自分のせいで、あの人は。あの人たち、は。
 それは、アタシがずっと、思い続けてきたことだったから。

 ジャックは、とても強い子だ。
 辛い過去を、決してなかったものになんてしない。しようと思わない。
 そういうものすべてを含めて、自分であろうとしている。
 過去を誰かのせいにしたりもしない。でも、未来について、誰かに感謝することはできる。
 だから、他の誰かの過去も含めて、その人として受け入れることができる。愛することができる。
 人を殺してきた、アタシや、カブのことでさえも、ジャックは受け入れた。無条件にじゃない、ジャック自身がきちんと理由を持って、受け入れた。
 ジャックがそれを罪だと知ってなお、アタシ達を受け入れてくれたから、アタシ達は、自分の罪と向き合うことが出来たんだろう。
 ジュダは、とても優しい子。
 誰かの悲しみを理解し、癒してあげることができる。
 ジャックが辛い過去を受け入れることができたのも、ジュダがずっとそばにいたからだろう。
 ジュダは、人の苦しみ、悲しみに対して、涙を流すことができる。
 ジュダが泣いてくれるから、アタシや、ジャックや、カブは……ひょっとしたら、ウォルダーも、自分の人生に後悔しないでいられる。誰かを恨んだりせずにいられる。
 この子が泣いてくれるなら、それだけの価値が自分にはあるのだろうと、そう思える。
 ……人の死に対してさえも、涙を流せなかったアタシとは、違う。

 そう、育てられていたのは、アタシの方。
 アタシが持たなかった純粋な子どもの心を、この二人はずーっと大切に育ててきた。
 だからこそ、アタシは多くのことを、この二人に教えてもらった。

 ふと、冷たい感触がした。
 洋服の下にあったのは、小さな塊。
 かつて、アタシの首についていたそれ。
 アタシが奴隷と呼ばれていた証……そして、アタシは奴隷なんかじゃない、人間なんだという、証拠。
 昔のアタシなら、見ることも、触ることも嫌だったはずのそれが、子ども達の洋服と一緒に“宝箱”に入っている理由はひとつ。
 アタシ自身が、あの頃の自分を、大切にしてあげたいと思ったから。

 ずっと、思っていた。
 アタシのせいで不幸になった人がたくさんいる。アタシは自分の不幸におぼれちゃいけない。そんな権利はないんだから、って。
 辛い過去があろうとも、苦しい思いをしたとしても、アタシがしたことは許されることではない。
 アタシが苦しんで生きるのは、罰だから。当然のことだから。幸せになりたいなんて、願う権利もない。
 だから、せめて、と。
 せめて、子ども達には、幸せに生きてほしいと……二人の幸せはアタシが守らなければと、そう、勝手な気持ちを押し付けてしまった。
 二人の幸せは、アタシが幸せであることだったのに。

 養父に……父親に、この世界には希望が存在することを教えられた。
 だから決して、目を閉じるなと。
 そうしてアタシは、この二人に出会って……世界の美しさを知った。
 暗い暗い過去を知っているからこそ、笑えるんだと、だからこそ素晴らしいんだと、教えてもらった。
 そして、アタシに苦しみから立ち上がる力をくれたのは、いつもそばにいて、背中を押してくれたウォルダー。
 いつだってそばにいて、馬鹿な話をしながら笑いあえたから、アタシはアタシでいられたんだ。

 だから、願うんだ。
 この世界のすべての人が、道に迷わないように、いつも空の上から変わらない光が降り注ぎますように、って。
 どうか、この世界が美しくて、素晴らしいということを、忘れないでいてくれますように。
 アタシが愛するすべての人が、そして、アタシ自身が、いつまでも、いつまでも、幸せに暮らせますように。
 アタシが大好きな世界が、いつまでもいつまでも、美しくありますように、って。

「セリオスー!枯葉拾い、終わったよー!」
「早く芋焼こうぜー!オレ、お腹減った!」
 外から聞こえてくる、可愛い子ども達の声に、今行くよと返事をして、アタシは“宝箱”を閉めた。
 この中に、もっともっとたくさんのものを詰めながら生きていきたいなと、そう思いながら。 

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